一時期は「白い黄金」ともてはやされたリチウムですが、今は価格が落ち着きすぎて投資家の間では少し忘れられかけています。2022年に1トンあたり8万ドルを超えていた価格が、今では1万ドル台まで下がってしまいました。しかし、リチウムは電気自動車(EV)に欠かせない電池の主役です。このどん底の時期こそ、次の波に備えて中身を正しく理解するチャンスです。
リチウム関連株の投資タイミングは供給過剰が解消される時期をどう見極める?
投資のタイミングを計るには、世の中にリチウムがどれくらい余っているかを知ることが一番の近道です。今はリチウムが市場に溢れている状態ですが、この余分な在庫がなくなれば、価格は自然と上がり始めます。ここでは、反撃のサインとなる具体的な3つのポイントを紹介します。
価格が生産コストを割り込み採掘を止める会社が増えた時
リチウムを掘り出すには、当然ながらお金がかかります。今の市場価格があまりに低すぎると、掘れば掘るほど赤字になる会社が出てきます。特に中国の「鱗雲母(レピドライト)」という岩石からリチウムを取り出す手法は、1トンあたり1万5000ドル以上のコストがかかると言われています。
市場価格がこの生産コストを下回り、採掘を諦める会社が続出した時が、供給が絞られる最初の合図です。 実際にオーストラリアの鉱山などでは、採算が取れずに操業を停止する動きが出ています。供給が減れば、価格の下げ止まりが期待できるため、投資を検討する重要な目安になります。
電池メーカーの在庫がなくなって再び注文が入り出す瞬間
パナソニックや中国のCATLといった電池メーカーは、リチウムの価格が高かった時期に大量の在庫を抱えていました。価格が下がっている間、彼らは新しいリチウムを買わずに、手元にある在庫を使い切ることに集中します。この「在庫整理」がいつ終わるかが鍵になります。
メーカーが在庫を吐き出し、再びリチウムを買いに走る動きが見えたら、それは需要が復活した証拠です。 多くの分析では、2024年中にはこの調整が終わると見られています。実需に基づいた注文が入り始めるニュースが出たら、株価が反応する可能性が高いです。
新しい鉱山の開発計画が次々と中止になり将来の不足が見えた時
今の安値が続くと、これからリチウムを掘る予定だった新しい鉱山のプロジェクトが止まってしまいます。鉱山を一つ作るには10年近い時間がかかるため、今投資を止めると、数年後にEVがもっと普及したときにリチウムが全く足りなくなります。
「将来のリチウム不足」が確実視されるようになると、投資家のマネーは先回りして動き出します。 業界最大手のアルベマール(ALB)などが、大型の投資計画を先送りにしたというニュースは、将来の供給不足を招く布石といえます。今リチウムが余っているからといって、将来もそうであるとは限りません。
電気自動車の売れ行きがリチウム価格をどん底まで押し下げた理由
リチウムの運命を握っているのは、間違いなく電気自動車(EV)の普及スピードです。以前は「世界中の車がすぐにEVに変わる」と信じられていましたが、その勢いに少しブレーキがかかりました。なぜEVの伸び悩みがリチウムを直撃したのか、その理由を解き明かします。
欧米で「EVシフト」が予想よりもゆっくり進んでいる影響
アメリカやヨーロッパでは、EVを買う人への補助金が減ったり、充電スポットが足りなかったりすることで、購入をためらう人が増えています。テスラのようなトップ企業でも販売台数が伸び悩む時期があり、これがリチウム需要の冷え込みに直結しました。
期待が大きすぎた反動で、EVの普及ペースが現実的なラインまで落ち着いたのが大きな理由です。 リチウムの生産者は、もっと売れると思って準備をしていたため、そのズレが在庫の山となって残ってしまいました。この「期待と結果の差」が、価格を急落させた張本人です。
ハイブリッド車(HV)の人気が再燃して電池の需要が減った
最近、トヨタが得意とするハイブリッド車(HV)が世界中で再評価されています。EVは高価で充電の手間がありますが、HVはガソリン車と同じ感覚で乗れて燃費も良いため、現実的な選択肢として選ばれています。
HVに使われる電池は、100%電気で走るEVに比べるとリチウムの量が非常に少なくて済みます。 消費者がEVではなくHVを選び続ける限り、リチウムの消費量は爆発的には増えません。この市場の好みの変化が、リチウム需要の予測を大きく狂わせました。
中国市場での激しい価格競争が素材の買い叩きに繋がった
世界最大のEV市場である中国では、BYDなどの自動車メーカー同士が激しい値下げ合戦を繰り広げています。車を安く売るためには、中身の電池も安く仕入れなければなりません。その結果、電池の材料であるリチウムが厳しく買い叩かれる事態になりました。
川下のメーカーが利益を削る中で、川上のリチウム生産者にしわ寄せが来ている構図です。 中国ではリチウムの価格が毎日変動しており、その安値が世界の基準になってしまっています。この安値競争が一段落しない限り、リチウム価格が力強く回復するのは難しいと言えます。
リチウムが余りすぎたせいで生産を止める鉱山が世界で続出した
価格が下がると、経営が成り立たない鉱山が真っ先に音を上げます。かつて「掘れば儲かる」と言われた時代は終わり、今は「掘るほど赤字」という苦しい時期です。世界各地で起きている撤退の動きは、市場が浄化されているプロセスでもあります。
採算が合わなくなったオーストラリアの小規模鉱山の動き
オーストラリアは世界有数のリチウム生産地ですが、多くの小さな会社が経営危機に陥っています。例えばコア・リチウムという会社は、価格安に耐えきれず一部の操業を止め、従業員の削減も発表しました。
資金力のない会社が市場から退出することで、ようやく供給の絞り込みが始まります。 こうしたニュースが相次ぐのは悲しいことですが、投資の視点では「供給のピークが過ぎた」と捉えることができます。生き残った強い会社だけが、次の好景気の利益を独占できることになります。
抽出コストが高い中国の特殊な岩石から作るリチウムの限界
中国にはレピドライトという岩石が多くありますが、ここからリチウムを取り出すのは手間がかかり、環境への負担も大きいです。市場価格が1トンあたり2万ドルを切るようになると、この手法での生産はほとんど赤字になってしまいます。
中国の生産者が採算割れを起こしていることは、価格の底が近いことを示す強力なシグナルです。 彼らが生産を止めれば、世界の供給量は大きく減ることになります。中国国内の鉱山の稼働率が下がっているというデータは、リチウム価格の底打ちを占う上で非常に重要です。
業界大手のアルベマールですら投資の手を緩め始めたインパクト
世界最大級のリチウム生産者であるアルベマール(ALB)も、今の厳しい状況を無視できません。彼らは2024年に入り、巨額の投資計画を縮小し、コスト削減に動くことを発表しました。王者ですら守りに入ったというニュースは、業界全体に衝撃を与えています。
最大手が投資を控えるということは、将来のリチウム供給が確実に減ることを意味しています。 短期的には株価にマイナスかもしれませんが、中長期的には需給をバランスさせるための賢い判断です。アルベマールの動きは、業界の底入れ時期を知るための最も信頼できる指標になります。
価格の底打ちとリチウムの需要が再び加速し始める時期の目安
今の苦しい時期を超えた先に、どのような未来が待っているのでしょうか。リチウムの需要が再び加速するには、いくつかの条件が揃う必要があります。投資家が目を光らせておくべき、復活のシナリオを整理します。
電池メーカーが溜め込んでいた在庫を使い切るサイクル
先ほども触れた「在庫の整理」は、そう長くは続きません。電池メーカーも、在庫がなくなれば新しく買い直すしかありません。リチウム価格が十分に安くなった今、メーカー側が「これ以上待っても安くならない」と判断すれば、一斉に買い注文が入るはずです。
2024年の後半から2025年にかけて、この在庫補充の動きが本格化すると見られています。 今は嵐の前の静けさのような状態です。メーカーの買い付け担当者が動き出すタイミングこそが、リチウム価格の本当の反転ポイントになります。
安くなったリチウムによってEV自体の価格が下がる好循環
リチウムが安くなったことは、実はEVの普及にとっては追い風です。電池のコストはEVの価格の約3割から4割を占めるため、材料が安くなれば車も安く作れます。EVがガソリン車と同じくらいの価格になれば、再び爆発的に売れ始めるはずです。
リチウムの安値がEVの販売を促し、その結果リチウムが再び必要になるという循環が生まれます。 安いEVが市場に溢れ出し、一般の家庭でも買いやすくなったとき、リチウム需要の第2波がやってきます。この好循環が始まるまで、あともう少しの辛抱です。
大手自動車メーカーが長期の調達契約を再び結び始めるサイン
フォードやゼネラル・モーターズ(GM)といった大手メーカーは、リチウムの安定確保を最優先しています。今は価格が乱高下しているため様子見をしていますが、価格が安定してくれば、再び5年や10年という長い期間の契約を結び始めます。
大手企業による長期契約の発表は、リチウム市場に「確実な将来の需要」をもたらします。 これにより生産者の経営が安定し、株価の土台が作られます。自動車メーカーの動向を追うことは、リチウム株投資において最も確実性の高い情報を得る手段です。
業界トップのアルベマール(ALB)やSQMはなぜこの逆風に耐えられる?
リチウム株に投資するなら、まずはこの2つの巨人を外すことはできません。アルベマールとSQMは、リチウム業界の両横綱です。どんなに価格が下がっても、彼らが倒れずに笑っていられるのには、圧倒的な理由があります。
アルベマールは、アメリカに拠点を置く世界最大級のリチウム会社です。チリの塩湖やオーストラリアの鉱山など、世界中に最高の資産を持っています。一方のSQMはチリの会社で、世界で最も低コストでリチウムを作れると言われている「アタカマ塩湖」を主戦場にしています。
| 項目 | アルベマール (ALB) | SQM |
| 主な生産拠点 | アメリカ、チリ、豪州 | チリ (アタカマ塩湖) |
| 低コストの理由 | 多様な資産と高度な精製技術 | 太陽光で蒸発させるだけの低コスト塩湖 |
| 米国補助金 | IRAの対象となり非常に有利 | 米国外だが、チリとのFTAで恩恵あり |
| 特徴 | 世界シェアトップ、安定した供給網 | 世界最高レベルの利益率を誇る |
どちらも共通しているのは、他の会社が赤字になるような低い価格でも、しっかりと利益を残せる「低コスト体質」です。 特にSQMのアタカマ塩湖は、自然の力(太陽と風)でリチウムを濃縮するため、電気を大量に使う岩石採掘とは比較にならないほど安く済みます。この圧倒的なコストの壁があるからこそ、彼らは王者の座を守り続けられるのです。
圧倒的に低いコストでリチウムを掘り出せる塩湖を所有
塩湖(えんこ)からリチウムを採る方法は、時間はかかりますがコストは劇的に安いです。地下にあるリチウムを含んだ塩水を地上に汲み上げ、太陽の光で蒸発させるだけだからです。アルベマールやSQMは、この魔法のような場所をすでに確保しています。
これからリチウムを掘ろうとする新しい会社が、このコスト競争に勝つのはほぼ不可能です。 良い場所はすでに大手が押さえており、後発組は高いコストを払って岩を砕くしかありません。この「場所の利」こそが、大手の株価を支える最強の武器になっています。
米国の補助金(IRA)を味方につけて有利に戦える立ち位置
アメリカのインフレ抑制法(IRA)は、北米やその友好国で採れたリチウムを使うEVに多額の税金控除を与えるルールです。アルベマールはアメリカの会社であり、チリもアメリカと自由貿易協定を結んでいるため、このルールの恩恵をフルに受けられます。
中国産のリチウムが排除される中で、アルベマールたちの製品は「選ばれるリチウム」になります。 政治的な背景も味方につけているため、たとえ中国が安値で攻めてきても、アメリカ市場では優位に立てます。国がバックについているような安心感が、この銘柄にはあります。
採掘だけでなく加工まで自社で完結させる仕組みの強み
彼らはウランや他の資源と同じように、掘り出すだけでなく、電池に使える「水酸化リチウム」などの形に加工する工場も持っています。この「垂直統合」により、原料の価格が下がっても加工賃で稼ぐといった、しぶとい経営が可能です。
ただの資源会社ではなく、化学メーカーとしての側面も持っているのが強みです。 付加価値の高い製品を作れるため、単純なリチウム価格の上下だけに左右されない強さがあります。投資をするなら、こうした「中身の濃い」会社を選ぶのが、長期で勝つための基本です。
次世代の電池や中国勢の台頭がリチウム市場の勢力図を変える?
「リチウムなんて、新しい電池が出てきたらお役御免なんじゃないの?」という心配もあるでしょう。確かに技術は進んでいますが、今のところリチウムを完全に置き換えるような魔法の電池は、まだ商業ベースでは現れていません。
安さが売りのLFP電池が世界中で主流になりつつある変化
今、中国を中心に「LFP(リン酸鉄リチウム)」という電池が爆発的に増えています。これまでの電池に比べて少し重いですが、安くて寿命が長く、燃えにくいという素晴らしい特徴があります。テスラも、安いモデルにはこのLFP電池を採用しています。
LFP電池が主流になっても、リチウムが必要であることに変わりはありません。 むしろ、電池が安くなってEVが普及すれば、リチウムの消費量はさらに増えます。電池の種類が変わることは、リチウム市場にとっては「敵」ではなく、需要を広げてくれる「味方」です。
リチウムを全く使わないナトリウムイオン電池は脅威になるか
リチウムの代わりに、塩の主成分であるナトリウムを使う「ナトリウムイオン電池」の研究も進んでいます。ナトリウムはリチウムより圧倒的に安く、どこにでもあります。しかし、残念ながらエネルギー密度が低いため、長い距離を走る車には向いていません。
当分の間、ナトリウムイオン電池は「安価な小型車」や「家庭用の大きな蓄電池」での活躍に留まりそうです。 主力のEV市場からリチウムを追い出すような存在にはならないというのが、多くの専門家の見方です。リチウムの独壇場は、まだまだ続くと考えて良いでしょう。
全固体電池の登場でリチウムの使われ方がどう変わるのか
トヨタが開発を急いでいる「全固体電池」は、EVの未来を変えると言われています。充電時間が劇的に短くなり、航続距離も伸びる夢の技術です。実はこの全固体電池でも、リチウムは依然として主役の座にあります。
全固体電池は、むしろ今まで以上にたくさんのリチウムを使う可能性があります。 技術が変わることでリチウムが不要になるどころか、より高性能なリチウム製品が求められるようになります。次世代電池への移行は、リチウム業界にとってはさらなるチャンスの到来です。
投資タイミングを逃さないためのリスク管理とおすすめの投資手法
リチウム株は魅力たっぷりですが、価格の動きが激しい「暴れ馬」でもあります。一か八かの大勝負に出るのではなく、大人の知恵を使ってリスクをコントロールしながら投資を楽しみましょう。おすすめの具体的なやり方を3つお伝えします。
一気に買わずに時間と価格を分散して少しずつ積み立てる
リチウム価格の底を完璧に当てるのは、プロでも不可能です。「今が底だ!」と思って全財産を注ぎ込むのは、絶対にやめてください。価格が下がっている間、あるいは横ばいの間に、毎月少しずつ買い足していく「ドルコスト平均法」が最も効果的です。
少しずつ買うことで、価格が高いときには少なく、安いときには多く買うことになり、平均の購入単価を下げられます。 どん底の時期にコツコツと種をまいておけば、将来価格が吹いたときに大きな収穫を得られます。焦らず、時間を味方につけるのが投資の鉄則です。
個別株が怖い人のためのリチウム関連ETF(LIT)の活用
アルベマールにするかSQMにするか選べない、あるいは一社が不祥事を起こすのが怖いという方は、ETF(上場投資信託)を検討しましょう。代表的なのは「グローバルX リチウム&バッテリー・テック ETF(LIT)」です。
これ一本を買うだけで、リチウムを掘る会社から電池を作るテスラやパナソニックまで、業界全体に丸ごと投資できます。 個別の会社のトラブルに一喜一憂しなくて済むため、精神的にも非常に楽です。リチウム市場という「大きな流れ」に乗るには、このETFが一番使い勝手が良いです。
資源価格の乱高下に耐えられるだけの余裕資金で取り組む方法
最後に、これが一番大事なことですが、リチウム投資は必ず「なくなっても生活に困らないお金」で行ってください。資源株は上がるときは数倍になりますが、下がるときは半分以下になることもあります。この激しさに耐えるには、心の余裕が欠かせません。
生活費や教育資金を注ぎ込んでしまうと、少し値下がりしただけでパニックになって、一番売ってはいけない場所で売ってしまいます。 どっしりと構えて、数年後のEV社会を楽しみに待てるくらいの余裕を持って、リチウムの世界に足を踏み入れてみてください。
まとめ:供給過剰の終わりこそがリチウム復活の号砲
リチウム関連株は、今まさに「我慢の時」を迎えています。供給が余り、価格が下がり切った今の状態は、投資家にとってはまたとない準備期間です。最後に、重要なポイントを5つにまとめました。
- リチウム価格が生産コストを下回り、鉱山の閉鎖が相次ぐ今が底に近い。
- 電池メーカーの在庫調整が終わる2024年後半以降が、復活の大きな目処。
- EVシフトはゆっくりだが、リチウムが必要な現実は変わらない。
- アルベマールやSQMのような、低コストで掘れる強い会社を選んでおく。
- 全固体電池などの新技術も、リチウムの需要を後押ししてくれる。
リチウムは、これからの脱炭素社会になくてはならないエネルギーの源です。今の安値に惑わされず、その本質的な価値を信じてみてください。あなたが今日から少しずつ始めた積立が、数年後に大きな実を結ぶことを願っています。
